――(2022)最高法知民終214号
裁判要旨
特許請求項に記載された特定の数値範囲の特徴について、侵害として訴えられた製品の相応する数値が当該数値範囲に安定的に入って、かつ実質的に係争特許と同一の技術効果を有する場合、被告が、侵害として訴えられた製品には製造公差が存在し、係争特許の特許請求項に記載された数値範囲の特徴を備えていないとの主張に対し、一般的に支持しない。
キーワード
民事 発明特許権侵害 数値範囲 製造公差 侵害認定
事件の経緯
米国某公司、某医療機器公司は、特許番号が20061012****.5で名称が「形成したステープル高さが異なる複数のステープルを形成するためのステープル・カートリッジ」であるの発明特許(以下、係争特許と略称する)の特許権者として訴訟を提起した。係争特許の出願日は2006年8月31日で、授権公告日は2011年6月1日である。米国某公司は、非独占的ライセンスにより、某医療機器公司に対し、中国においていずれかの係争特許により保護される製品を使用・販売・販売の申し出・輸入することを許諾した。2018年10月、米国某公司、某医療機器公司は、江蘇某公司および上海某公司が、許可を得ずに係争特許権を侵害する釘カートリッジ製品を生産・販売・販売の申し出をすることを発見した。従って、江蘇某公司と上海某公司に対して侵害行為を停止し、経済的損失および権利保護のための合理的な支出28168951.4元を賠償するよう判決を下すことを請求した。
江蘇某公司、上海某公司は、被疑侵害製品は係争特許権の保護範囲に入っておらず、かつ従来技術を使用していると弁論し、米国某公司、某医療機器公司の訴訟請求を棄却すると求めた。
法院の審理において、被疑侵害製品はDAEM60(ストレートヘッド)とDREM60(カーブドヘッド)の2種類の整合器製品に適合可能であり、両製品のアンビルにはいずれも段部が設けられ、外側が高く内側が低い形状を示していた。ポイントを選択しアンビルの内側溝と外側溝の深さの差を測定した結果、DAEM60製品のアンビル内外溝深さ差は0.3mmを超えず、上記の高さ差0.3mmと相殺することができる。2020年製品の両側の内外溝深さ差はいずれも0.35mmを超えなかったが、外側溝と中間溝の深さ差はいずれも0.35mmを超えており、測定差は0.359mm~0.375mmであり、上記の高さ差0.3mmと相殺した後の差は0.059mm~0.075mmであった。米国某公司、某医療機器公司は、公差値を0.05mmであると確認した。江蘇某公司、上海某公司は、そのアンビル内外溝深さの設計差は0.3mm、公差値は±0.1mmであり、上記の測定差0.359~0.375mmは公差値の範囲内にあると主張した。
一審法院は民事判決を下して、米国某公司、某医療機器公司の訴訟請求を棄却した。米国某公司、某医療機器公司は不服として上訴した。最高人民法院は2024年12月17日、以下のように(2022)最高法知民終214号民事判決を下した。一審判決を取り消し、江蘇某公司、上海某公司が侵害行為を停止し、江蘇某公司が米国某公司、某医療機器公司に対し経済的損失200万元を賠償し、上海某公司がそのうちの12万元について連帯賠償責任を負い、江蘇某公司、上海某公司が米国某公司、某医療機器公司に対し、権利保護のための合理的費用30万元を支払う。
裁判意見
法院の発効判決は、測定データに基づいて、2020年製品のアンビル両側の溝深さはいずれも外側が高く内側が低い設定を示しており、すなわちその外側溝と中間溝の深さ差はいずれも0.35mmを超え、測定差は0.359mm~0.375mmであり、釘カートリッジの外高内低設定の高さ差0.3mmと相殺した後の差は0.059mm~0.075mmとなる。米国某公司、某医療機器公司が公差値を0.05mmと確認していることに基づけば、その有効な設計差は0.009mm~0.025mmとなる。江蘇某公司、上海某公司は、そのアンビル内外溝深さ設計差は0.3mm、公差値は±0.1mmであり、上記の測定差0.359~0.375mmは公差値の範囲内にあると主張するが、有効な証拠を提出して証明しておらず、かつ米国某公司、某医療機器公司が主張する有効設計差はいずれも安定的に0.35mmを上回っており、0.35mmを下回る場合はなかった。したがって、安定的に基準値を上回る部分を公差値として認定する根拠は不十分である。これに基づき、この設計差により、被疑侵害釘カートリッジは2020年製品に適合し、外側の釘成形高さが確かに中間の釘成形高さに対して相対的かつ安定的に高くなっており、それによって組織が緊密に圧縮された止血部分から非圧縮の隣接部分へ移行する際のクランプ効果を提供することができる。中間の釘成形高さが内側の釘成形高さよりも低いという問題については、技術的効果の実現に実質的な影響はなく、被疑侵害製品が「釘カートリッジとアンビル部分の協働により、複数の同一の釘が異なる成形高さを有する釘に成形される」という技術的特徴を有するか否かの認定に影響を与えるほどではない。
ソース:最高人民法院知識産権法廷