裁判要旨
ある技術案が従来技術に対する改良の核心が製品の形状、構造又はその組み合わせにある場合、その技術案は実用新案の保護対象に該当するが、改良の核心が材料、方法に対する改良にあり、かつこの改良が形状、構造又はその組み合わせの改良をもたらさない場合、実用新案の保護対象外となる。
キーワード
行政 実用新案権無効 保護対象
事件の経緯
外国の康某公司は、専利番号が20162136****.7であり、名称が「ガラス系製品及びそれを含む装置」である実用新案(以下、本専利と略称)の専利権者である。本専利の請求項1は、「ガラス系製品であって、約3ミリメートル未満の厚さ(t)を画定する、第1の表面及び前記第1の表面の反対にある第2の表面と、前記厚さに沿った応力プロファイルとを含み、約0t~0.3t及び約0.7t超~tの厚さ範囲間の応力プロファイルの全ての点は、約0.1MPa/マイクロメートルを超える絶対値を有する傾きを有する接線を含み、前記応力プロファイルは、最大CS、DOC、及び約71.5/√(t)(MPa)未満の最大CTを含み…」である。
2019年7月23日、田某は、本専利権に対し無効宣告を請求した。国家知識産権局は、2020年2月27日に以下の無効宣告請求審査決定(以下、被訴決定と略称)を下した。本専利の請求項1~3において規定された応力プロファイルなどのパラメータは製品の形状、構造に対する、実用に適した新たな技術案ではなく、実用新案の保護対象外のものであり、本専利権は全部無効と宣告された。
外国の康某公司は、これを不服として、被訴決定を取り消し、改めて審決を下すよう国家知識産権局に命じることを求めて第一審法院に訴訟を提起した。外国の康某公司は、以下のように主張した。本専利は、ガラスの3層のマクロ構造を定義する技術案に関し、ガラス系製品の複合層構造に対する改良に該当し、『専利審査指南』に記載された「浸炭層」の例と類似し、実用新案の保護対象に該当する。
第一審法院は、外国の康某公司の訴訟請求を棄却するという第一審行政判決を下した。外国の康某公司は、これに不服して、上訴を提起した。最高人民法院は、2024年11月14日に、上訴を棄却し、原判決を維持するという(2023)最高法知行終607号行政判决を下した。
裁判意見
法院の効力発生した判決は、以下のように考えている。専利法第2条第3項の規定によれば、実用新案は、製品のみを保護し、かつ製品の形状、構造に対する改良に係るものでなければならない。したがって、ある技術案が実用新案の保護対象に該当するか否かを判断するには、従来技術に対して行った改良が、方法、材料に対する改良ではなく形状、構造又は組み合わせに対する改良であるか否かを判断すべきである。実用新案登録請求の範囲には、既知の材料の名称を含めることができ、すなわち、従来技術における既知の材料を、形状、構造を有する製品に適用することが許容されるが、登録請求の範囲の核心が材料それ自体に対する改良にある場合、実用新案の保護対象外となる。
本案件の場合、当業者は本専利の明細書及び登録請求の範囲を読んだあと以下のことを理解できる。即ち、本専利の思想は、従来技術における化学強化ガラスが熱強化ガラスの応力プロファイルを示さない課題を解決するため、イオン交換によりガラス系製品を、その厚さに沿って独特の応力プロファイルを示すようにすることにより、ガラスの耐亀裂性を改善することである。したがって、本専利が解決しようとする技術的課題も技術的課題を解決するための技術手段も、本専利が物質材料それ自体に対する改良を目指していることを示しており、製品の形状、構造の改良とは関係ない。本専利が実用新案の保護対象に該当しないとの被訴決定及び第一審判決の認定は、妥当である。
なお、本専利登録請求の範囲において規定した応力層が『専利審査指南』に規定した「浸炭層」に相当し、かついずれも構造的特徴に該当するとの外国の康某公司の上訴主張については受け入れない。浸炭層は、既知の材料の名称であり、形状、構造を有する複合層製品に適用した場合、複合層製品の構造に対する限定であり、浸炭層それ自体に対する改良ではないため、実用新案を限定するための構造的特徴として用いることができる。これに対し、外国の康某公司は、本専利における応力層が既知の材料の名称であることを証明しておらず、かつ本専利の改良が材料に対するものであるため、応力層を構造的特徴として認定することができない。従って、外国の康某公司の上訴請求は、成立せず、棄却すべきである。
ソース:最高人民法院知識産権法廷