Foundinニュースレター2021年3月号―無効分析2101&Huawei訴訟

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[ 2021-07-21 ]

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《2021年1月中国専利無効の決定に対する分析》


   2021年1月、国家知識産権局専利復審・無効審理部が公表した専利権無効宣告/請求/審査/決定は472件であった。このうち、実用新案が220件で46.6%、意匠が145件で30.7%、特許が107件で22.7%をそれぞれ占めた。 この472件の無効宣告/請求/審査/決定[1]を分析したポイントを以下に挙げる。

 

  • ・数量は実用新案が最も多く、次いで意匠、特許の順となる。 
  •  ・主に電気学、また家具などの技術分野に集中している。
  •  ・特許権者の所在地は広東・浙江2省に集中している。
  •  ・審理期間は5~8か月が最も多い。
  •  ・無効となった特許権が維持した年数は多くが1~5年間であり、長期権利を維持したものは少数であった。
  •  ・完全無効となった件数は全体の44.5%を占め、そのうち意匠では55.2%、実用新案では45.5%、特許では28%をそれぞれ占めた。
  • ・ 一部無効となった件数は全体の15.7%であった。
  •  ・権利が維持された件数は全体で39.8%、そのうち意匠で44.8%、実用新案で34.5%、特許で43.9%をそれぞれ占めた。 
  • ・意匠において完全無効となった案件の主な理由は新規性について及び区別が不明確というもので、実用新案における完全無効の主な理由は進歩性についてであった。 

 

 

技術分野  

  特許及び実用新案の属する技術分野は主に電気学、家具などである。特定の技術分野においては、同一の無効宣告請求人から同一の特許権者の複数の特許権に対する無効宣告請求が行われるケースが発生している。

 

  

無効宣告請求人及び特許権者の所在地  

  無効宣告請求人はその殆どが中国で登録した会社または自然人である。このうち自然人としての無効宣告請求比率は約1/10で、2020年における同様の請求件数比率(約1/3を占める)からの下降が見られる。 

 

  専利権者においてもその大多数が中国で登録した会社または自然人で、件数は418件、88.6%を占める。国外専利権者の専利が無効宣告請求をされたケースは54件、そのうち日本が18件で最多数、次にドイツの9件、アメリカの8件と続き、その他の国の専利権者の無効案件数はどれも3件以内であった。

 

 

審理期間

  「無効請求日」から「無効の発表日」までを1サイクルとして計算する[2]と、中国国家知識産権局が無効案件の審理にかける時間は殆どが5~8か月である。少数の案件においては期間が4か月と短く、また少数の案件においては15~19か月と長くなっている。統計結果から見ると意匠においては審理期間の長いものは少数であり、最長でも12か月である。特許においても審理期間が4か月の案件が存在する。

 

 

権利維持年数  

完全無効となった210件のうち、特許権の維持年数(「権利付与公表日」から「無効が決定した日」まで)は多くが1~5年で、維持年数の比較的長い案件は少数である。  

 

 

無効の比率

  完全無効となった案件は全体の44.5%を占め、そのうち意匠における完全無効は55.2%、実用新案における完全無効は45.5%をそれぞれ占めた。特許における完全無効の比率は比較的低く、28%であった。 

 

  一部無効となった件数は全体の15.7%で、このうち実用新案における一部無効の比率は20%、特許における一部無効の比率は28%であった。 

 

  権利が維持された件数は全体で39.8%、そのうち意匠における権利維持の比率は44.8%、実用新案における権利維持の比率は34.5%、特許における権利維持の比率は43.9%をそれぞれ占めた。

 

 

無効化の理由

   

  意匠において完全無効となった80件のうち、その主な法的根拠は『専利法』第23条第1項(新規性)と23条第2款(明らかな違いの欠如)である。 

 

  実用新案において完全無効となった100件のうち、その主な法的根拠は『専利法』第22条第3項(進歩性)で、このほか3件においては申請書類の形式の問題(内容の公開が不十分、対応範囲外、不明瞭)のみを理由とするものであった。 

 

  特許において完全無効となった30件のうち、その主な法的根拠は『専利法』第22条第3項(進歩性)で、このほか1件は申請書類の形式の問題(必要な要素の欠如、及び範囲を超えた修正)のみを理由とするものであった。

 

[1] 関連データは中国国家知識産権局 http://reexam.cnipa.gov.cn/公開の《无效宣告请求审查决定书》並びに http://epub.sipo.gov.cn/ にて公開している専利情報記録から取得

[2]行政訴訟あるいは関連事件に関連する理由から審理期間が 23 か月を超える案件が 3 つ存在し、これらは統 計しない。

  

 

 

『2020 年技術分野における 10 件の知財関連典型的な判例』から――
 CONVERSANT WIRELESS LICENSING S.A.R.L.対 Huawei 特許ライセンス紛争

 

 

 

[概要] 

   

  2018 年 1 月、Huawei 社は CONVERSANT WIRELESS LICENSING S.A.R.L 社(以下 CONVERSANT)に対し、その3件の中国特許権を不侵害であること、及び中国での標準必須特許 (Standard Essential Patents)のロイヤルティ料率の確認を求め南京中級人民法院において提訴し ました。この Huawei の提訴に対抗し、同年 4 月 CONVERSANT はドイツ・デュッセルドルフ地裁に て特許侵害訴訟を提起し、Huawei に対し侵害の停止と損失への賠償を求めました。2019 年 9 月 16 日、南京中級人民法院は第一審判決を下し、Huawei 社、その中国関連会社、及び CONVERSANT 社に関連する標準必須特許のロイヤルティ料率を定めました。

 

  CONVERSANT は一審判決を不服とし、最高人民法院に控訴しました。2020 年 8 月 27 日、中国 最高人民法院の裁判期間中、ドイツでは Huawei とそのドイツ関連会社の CONVERSANT への特 許侵害を認める第一審の判決が下り、Huawei とそのドイツ関連会社は関連するモバイル端末の 供給、販売、使用または上記の目的での輸入、または保持が禁止され、侵害品に対しては廃棄・ 回収などの措置を取るよう命じられました。この判決は CONVERSANT が担保金 240 万ユーロを 供託した後臨時執行されると決められました。 

 

  同日 Huawei は最高人民法院に行為保全の申立を行い、最高人民法院が最終判決を下す前に CONVERSANT がドイツ地裁判決の執行を申請することを禁止するよう要請しました。最高人民法 院知識産権法庭は必要性、損益のバランス、国際礼譲などの要素を総合的に考慮し、48 時間以 内に以下のように行為保全の決定を下しました。「CONVERSANT 社は最高人民法院が最終判決 を下す前に上記ドイツ地裁判決の執行を申請してはならない。この裁定に違反した場合、100 万 元/日の罰金を課す。この罰金は金額が累積され違反日を計算開始日とする。」 

 

  

  CONVERSANT は再審を提起しましたが、最高人民法院は双方当事者から事情を聴取した後これ を却下する決定を下しました。各関係者は本件の裁定を尊重し順守すると同時に積極的な交渉を 行った結果世界一括の和解契約を結び、法律的・社会的に良い成果を得た上で世界各国での並 行訴訟となった本訴訟を終了しました。  

 

 

[意義] 

   

  中国最高人民法院知識産権法庭は中国人民法院で知識財産分野において初となる訴訟差止命 令の性質を持つ行為保全の裁定を行い、且つこの行為保全判決裁定が確実に執行されるよう 「日単位で科す罰金」措置を初めて適用しました。上記三件の判決は「訴訟差止命令」の性質を持 つ行為保全の適用条件と考慮要素を明確にし、中国が「訴訟差止命令」制度を確立・改善する上 での探索事例、また国家利益・司法主権・企業の合法的権益それぞれに対する有益な経験となり ました。